変化を通して大きく成長する「バックキャスティング経営」  オーラライト社の事例

「バックキャスティング」で未来を考え、事業の転換を成功させた、スウェーデンの「オーラライト社」企業事例をご紹介します。
オーラライト社は、過去10年間で電球製造販売会社からライティング・ソリューション・プロバイダーへと変貌を遂げました。この改革はハーバード大学のケースにもなっていて、「眠れるスカンジナビア企業から、ライティング・ソリューション・プロバイダーとしてダイナミックなヨーロッパ企業への転換」と表現されています。

それを成功に導いたのが2007年から約10年間CEOを務めたMartin Malmrosさんです。  Martinさんから聞いた話をもとにバックキャスティングの効用をご紹介したいと思います。

いまのビジネスの売り上げが伸びていたとしても、将来に必要な変革は進める!

【ミッション】
オーラライト社は法人に対し、サステイナブルな照明のソリューションデザインを提供し、コストやエネルギー消費、環境負荷を低減するサポートをする
【ビジョン】
法人のお客様にとってサステイナブルな照明ソリューションを提供する、グローバルなパートナーになる

今はこのようなミッションとビジョンを掲げて活動していますが、2007年までは北欧向けの電球製造販売会社でした。
ヨーロッパでは、フィリップス社とオスラム社の2社でシェア8割を占めていましたが、オーラライト社はロングライフ製品を作ることで差別化を図ってきました。ロングライフの照明はメンテナンスコストが低く、省エネルギーという点で法人顧客には強みとなっていたそうで、順調に売上を伸ばしていました。

 

大半の経営陣は、このまま発光ダイオード(LED)などの技術革新を取り入れながら、企業経営をしていけば安定成長が見込めると考えていたそうです。照明のマーケットは建設ラッシュが続くアジアの成長が著しい一方で、ヨーロッパは新築物件の建設は少なく、付け替え需要がメインでした。それでも2013年には30億ユーロ、2016年には40億ユーロが予想されていたので、北欧だけでなくヨーロッパのマーケットを開拓すれば売上が伸びるのは明らかでした。

 

しかしMartinが2007年にCEOに就任した時、こんな風に思ったそうです。
「このまま電球の製造販売を続けていては将来的には儲からない事業になることは明白だ。電気代の節約のためにも旧式の照明はLEDにとって代わられ、その価格ダウンとマーケットへの浸透は思った以上に速いのでは」と考えていたのです。しかし、当時の経営陣とはまだその危機感を共有できずにいたそうです。

改革の第1フェーズ 

2007年に掲げた目標は5年で「売上2倍と営業利益率を2倍」といったものでした。
かなり野心的な目標で、明らかに現在の延長線上では達成できないものでした。そのために最初に取り組んだ改革は大きく3つありました。

改革その1:ヨーロッパへの進出と営業力の強化
ストックホルムに住んでいるヨーロッパ諸国出身の人を次々に採用し、母国でのセールスに従事してもらい、ヨーロッパへ進出する取り組みを始めました。2007年の1年だけで2000人もの面談を行ったそうです。

改革2:製品ラインアップの見直し
従来製品よりも10%省エネ製品をリリースし、照明の製造販売以外の事業にも取り組み始めました。

改革3:ソリューション営業スタイルのトライアル

まだオーラライトの知名度の低い南欧で証明のソリューションとセットの販売スタイルのトライアルを始めました。
今では一般的に知られていますが、「製造業のサービス業化」と言われるものです。「グローバル化とコモディティ化が急速に進んでいく社会では、世界のどこでも同じような製品を製造することが可能になる。物を作って売るだけでは労働力の安価なところで生産された製品との価格競争に陥って利益を確保できなくなる」と見込んでの新しい試みでした。
試行錯誤しながらもイタリアでこのソリューション事業が成功を収めます。電気代の高い国ではロングライフであることよりも省エネであることに関心が高いことも分かりました。

 

将来、どう考えても地球規模での資源の減少と需要の拡大は必至です。そのような環境で電気代が上がっていくと、ますます省エネの需要は高まることは容易に想像がつきます。このような将来起こりうる環境の変化をMartinは経営陣と丁寧に共有していったと言います。そこでは、世の中の変化を表現するファネルの構造や、地球や社会が限界に達しないようなビジネスをするための原則などツールを使いながら、何度も一緒にワークショップ形式で会議を行っていったそうです。実際、前述の改革の成果で業績が大きく伸びていったため、ステークホルダーが満足した状況下で危機感を醸成するには時間がかかったそうです。中には退職を余儀なくされた幹部もいたようです。

改革の第2フェーズ

そして2012年「やはり既存路線の延長線上では事業が立ち行かない」と大多数の経営陣が認識したところで、「2014年までにLEDを用いた照明ソリューション・プロバイダー企業になる」と明確に打ち出し、大きくかじを切りました。2011年にイタリアで成功を収めたとはいえ、売上高に占めるソリューションの比率は1%ほどだったそうです。ここで立てた目標もチャレンジングで将来に焦点が当たっています。

 

目標達成にはそのためには製造販売の会社にはない能力やノウハウを獲得する必要がありました。スウェーデンのセンサー関連企業を買収したり、ソリューションに必要な専門性を持ったエンジニアを採用したり、イギリスの企業と提携しながら改革を進めていきました。その結果、従来よりも最大80%のエネルギー消費を減らし、75%のメンテナンスコストを削減できるソリューションが実現できるようになりました。この他にもサプライチェーンの改革や営業の改革などさまざまな改革を将来イメージに向かって行っていったそうです。

 

北欧では照明取り換え時のLEDのシェアは2011年20%だったのに対し、2013年には80%まで跳ね上がり、まさに時流に乗った手が打てる企業に変貌を遂げることに成功したのです。2014年にはヨーロッパにおける照明ソリューション・プロバイダー企業としての地位を確立できました。
2015年以降は成長市場へ進出したり、照明器具とセンサー技術を革新したりするなどさらなる改革を続けていったそうです。

変化を通して大きく成長する

Martinが心にいつも持っている言葉があるそうです。それは「Thrive through Change」、変革を通して大きく成長するといった意味です。常に将来に焦点をあて、野心的で具体的な目標を設定し、そこに向かって組織文化も組織の能力も変化させ続けるバックキャスティングの思考こそが成功の条件だと言います。いくら将来の目標を持っていても、それが具体的でなければ実行に移されません。私の『30年後の旅行の夢』と同じです。「イノベーション企業を目指す」とか「サステイナビリティに貢献する」などといった聞き心地のいい言葉では何も変わらず、忘れ去られてしまうだけです。

 

企業が持続的に成功を収めるためには、今必要なキャッシュを稼ぐ、現在の事業の改善が不要だということではありません。Martinが将来を見据えた変革に必要な資金を得るために営業強化を行い、売上を伸ばしたように、フォアキャスティングの施策も必要です。しかし、それが将来の成功のための投資であることは忘れてはならないのです。バックキャスティングで思考すると、自然とフォアキャスティングも戦略的に意義を持つ施策になるのではないでしょうか。

 

今回ご紹介したオーラライト社の元CEOのMartin Malmrosは、複数の組織の変革を成功させてきた経営者でまさに変革のリーダーシップを実践してきた方です。
弊社では12月にMartin Malmrosさんと招聘し、「バックキャスティング経営を実現するリーダーシップ」と題して半日のセミナーを開催いたします。詳しくは以下をクリックしてご覧ください。

組織開発と人材開発のコンサルティング。株式会社ビジネスコンサルタント(BCon)は、“健康な組織”と“卓越した人材”の創出を支援します。国内22都市、海外2都市に拠点を持ち豊富なソリューションサービスで解決のサポートを行います。
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